安価にどこでも一律な治療を受けられる保険の入れ歯
保険証を持っていれば誰でも保険診療を受けることができますが、そもそも国の定める医療保険とはどういうものか調べてみると、改定はあるものの「病気のために働けなくなり貧困になること」への対策であり、貧困が病気を生み、病気が貧困を生むという悪循環を断つためにうまれた社会の仕組み、とあります。
そして「国民全員が最低限の治療を受けられるようにすること」を目的として作られたもの、と記されています。
これはその昔、水を介して拡がるコレラ・チフスの感染症を防ぐのに清潔な水を確保するために濾過・消毒をおこない水道ができたのと似ている気がします。
水道の普及により地域ごとに味の違いは多少あるものの日本全国、蛇口をひねれば最低限、飲用レベルの水が出てきます。
このことを歯科治療と比較すると、「原因を除去し、冠や入れ歯を入れ、日常生活するのに最低限困らない治療」にあてはまるのではないでしょうか。
審美性・適合性・耐久性などは考えられておらず『クオリティー』を求めるのであれば、お金を出してペットボトルのミネラルウォーターを買うように生活の質を患者様自身が決める、という考え方に置き換えられる気がします。
国が保険歯科治療を水道水と同等に考えているならば、人間の豊かさや生活の質などが後回しにされ、先に述べたように「機能」だけに重点を置き、今後も変わることなく続いていく治療だと思います。

保険のブリッジや部分入れ歯は支えの歯がダメになりやすい
保険の部分入れ歯は、クラスプという金属のバネを使うため、入れ歯が動くと一緒に隣接する歯も動かしてしまい、ゆっくりと歯を抜く力が加わってしまいます。私たち歯科医師が歯を抜く時、横に揺らして抜くのですが、それと同じことをクラスプがしてしまうのです。
また、保険の人工歯は既製のプラスチック製で、天然の歯のような固さや溝がないため、歯ぎしりすることが難しく、その都度、入れ歯を揺らしてしまうため歯にかかる負担が大きくなります。使用しているうちに人工歯がすり減ってくるため、製作当初の噛み合わせの高さを維持することが難しくなり、バランスが崩れることで歯への負担も増してしまいます。
ブリッジの場合、連結固定という意味からは強固になるので歯が抜けてしまうことはあまりありません。ただし、咬み合わせのバランスがとれていないと、歯にかかる負担が大きくなるため、保険の部分入れ歯と同様に歯を動かす力が加わり、寿命が短くなることはあります。
保険のブリッジと部分入れ歯の寿命
一般的に冠は5~7年と統計が出ているようですし、別の高額な治療を売るための方便として保険のブリッジや部分入れ歯の寿命の短さを強調している医院もあるようですが、どれくらい長持ちするかは、やはり患者様の口腔内の状態によります。
実際、30年前(私の父の代)に治療したとおっしゃる保険のブリッジも現に存在しています。入れ歯においても、私たち歯科医師からみると人工歯がすり減ったりガタついたりして「よくこれで食事ができているな」と思うような入れ歯でも、患者様は器用に使いこなし、お食事ができるとおっしゃっています。
入れ歯はこんなものだと諦めていらっしゃるのかもしれませんが、入れ歯に限って言えば、患者様が不具合を感じダメだと思った時が、その入れ歯の寿命ということになると思います。
保険治療の限界
保険治療には様々な意味で限界があり、現在の保険制度が変わらなければこの先同じ状況が続くであろうと思っていますが、保険治療だからといって明らかに手抜きをした治療がされている場合、憤りを感じることもあります。
ただ、多くの患者様は保険で最高の治療を求めますので、不具合が生じた時に、たとえその治療を行った前医がきちんとした治療をしていたとしても、前医を悪者にされる場合も残念ながらあります。保険制度の限界を患者様に正しくお伝えしつつ、最善の治療を提案し、行なっていきたいと考えています。

『他の歯科医院で自費の入れ歯を作ったのですが、どうも具合が良くない』
こう言ってお見えになる方が今までに何人もいらっしゃいました。
中には、「よそで1ヵ月前に作ったばかりなのに、痛くて噛めないし、すぐに外れてしまう」等々...。入れ歯を作った歯科医院でそのように伝えても、「慣れれば大丈夫ですよ」「もうしばらく様子を見てみてください」などのように言われて帰されてしまうことも多いようです。
その入れ歯を作るまでに、時間もお金もかかったことと思います。
せっかく作った入れ歯が合わなかったり、きちんと調整してもらえない(場合によっては話すらちゃんと聞いてもらえない)など、きっとつらい思いもされたことと思います。
当院にご来院いただいた場合、先ずは、これまでの経緯をよく聞き、お口の中の状態を拝見します。
ほんの少しの調整で改善する場合は、もちろん調整を行います。ところが、「本当に良い入れ歯作り」を徹底して行なっていない歯科医院で作った入れ歯は…
- 咬み合わせのことが考慮されていない
- 入れ歯が安定するための必要な大きさ・形態に作られていない
- バネをかける歯を守るような設計がされていない
などの理由により、歯ぐきや歯に痛みが出たり、入れ歯が安定せず外れてしまったりします。
入れ歯を少し削るなどして痛みを軽減できたとしても、また別のところに痛みが出て入れ歯を削り、そしてさらにまた別のところに痛みが出て...を繰り返し、いたずらに患者さんの通院回数を増やすだけになり、いつまでも使い良い入れ歯になることはありません。
現状の入れ歯を何とかして差し上げたい、という気持ちは大いにあるのですが、元々の作りが良くない入れ歯では残念ながら限界があります。
入れ歯とお口の中を拝見した上で、微調整では改善が難しいと判断した場合には、作り替えをご提案させていただくことがあります。あらかじめご了承のうえ、ご来院ください。

『入れ歯にしてから、味が分からなくなった』
本来、味覚は舌にあるもので入れ歯の装着には関係がないはずですが「入れ歯にしてから味がよくわからなくなった」とお聞きすることがあります。
美味しい食事というのは味そのものだけではなく、食感、温度、のどごし等、様々なものが組み合わさり美味しいとなるのでしょう。
特に保険の入れ歯では残念ながら自分自身の歯と同じような噛み心地は味わうことができません。
また食事中に入れ歯がずれたり浮いたり入れ歯の下に食べ物が入り込んだりすると、そのことばかりが気になりゆっくりと味わえないことも美味しく食事ができないといった理由の一つになるのだと思います。
保険のブリッジや部分入れ歯は、毎日の重点的なケアが必要
ブリッジに関しては、精度の問題から二次カリエスのリスクが高くなりますので毎日の口腔ケアを丁寧におこなう必要があります。早期発見の意味から定期的なメンテナンスも必要です。
入れ歯に関しては、毎日洗浄をおこない清潔に保つことと、バネがかかっている歯は汚れが溜まりやすく虫歯になりやすいので重点的なケア(歯磨き)が必要です。